昨年12月、インドのモディ首相とアフガニスタン のガニ大統領による二者会談が行われ、両国は航空貨物の輸送協定の締結に向けて大筋合意に至りました。アフガニスタン は主に軍事機器の輸入促進と、関連し軍事演習の強化による国内の治安改善を目的とし、インドにとってはエネルギー豊富な中央アジア に隣接するアフガニスタン との外交関係を良好にし、パキスタン を迂回したアフガニスタン の市場アクセスのルートの確保を目的とするものとなります。強い緊張状態にある印パの国境沿いを牽制する動きでありながらも、トルクメニスタン や水力発電 所が豊富なタジキスタン 等、人口増大による絶対的なエネルギー不足に陥るインドにとっては、中央アジア の資源確保及びそのためのアフガニスタン への市場アクセスは至上命題 になっており、既に20億ドルを同国の経済復興を目的としたインフラ開発に投じているなか、インドのアフガニスタン に対する投資は今後加速するものと予想されています。
またこの二国間による航空貨物輸送協定は昨年5月にイラン、インド、アフガニスタン の3ヶ国間で締結されたイラン・チャバハール港のインドに対する使用許可及びインド資本による同国のインフラ開発の協定を補足するものとなります。インドのイランに対する積極投資は経済特区 SEZの設置と合わせたチャバハール港の港湾開発のみならず、イランの南北1,300kmを鉄道で結ぶ「南北経済回廊」を含むものとなり、中国の「一帯一路」構想に対抗するものとなります。合わせてインドはイランの石油・天然ガス 分野に対する大型投資を行う旨を発表し、また、昨年末においては印モディ首相による中央アジア ツアーが実施され、キルギスタン や上述タジキスタン 等に対し、投資促進含む経済協力や安全保障協力の協定が締結され、インドにとって戦略地政学 上、重視するアフガニスタン 及び中央アジア との関係を深める動きが始まっています。
インドがアフガニスタン 市場アクセスを国家戦略としているのは、急増するエネルギー需要に対するその施策と一貫となります。具体的にはTAPI(Tトルクメニスタン Aアフガニスタン Pパキスタン Iインド)の天然ガス の輸送パイプラインの経由地となるアフガニスタン との外交強化にあり、インドはアフガニスタン 、パキスタン 以東に位置しているため地政学 的な劣勢下にあるなか、2012年にパキスタン とともにトルクメニスタン からの天然ガス のパイプラインの建設計画協定に署名をし、TPCL(TAPI Pipeline Company Limited)と呼ばれる運営会社の設立、並びにトルクメニスタン にある世界2位のガス埋蔵量を誇るガルキニッシュからアフガニスタン を経由し、パキスタン とインドと国境沿いまでの約1,600kmのパイプラインの建設が正式に始まりました。
2019年 に建設終了が予定されているTAPIは、約30年間に渡り、年間ガス輸送能力は330億立方メートルを送る世界最大規模の天然ガス の輸送パイプラインとなり、四カ国間での交渉役をアジア開発銀行 ADBが一部担うことで複雑な利害関係を乗り越え、南アジアのエネルギー不足を解消し、地域に平和と安定をもたらすことになるでしょう。
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しかし、この印パによるエネルギー・インフラ構築プロジェクトにも大きな障害が立ちはだかります。それは
アフガニスタン の安全保障問題です。19世紀、英国領
インド帝国 の支配下に置かれた現
アフガニスタン は三度に渡る
独立戦争 を経て、1919年に英国より独立を果たしたものの、その
地政学 的な要因から他国や多民族から多くの干渉を受けて来ました。20世紀の冷戦時においては、
社会主義 の拡大を狙う
旧ソ連 から度重なる侵攻を受け、1979年には軍事介入がされる「
アフガニスタン 侵攻」が起こります。
旧ソ連 の撤退以降も内戦が長く続き、
タリバン の台頭を許し、1996年には首都カブールを制圧、その後、国土の約9割を掌握しました。
2001年に起きた米国
同時多発テロ 以降、米英等による軍事行動が実施され、
北部同盟 が
アフガニスタン を奪還、その後和平プロセスを経て復興が為されています。一方、山岳地帯を中心に引き続き
タリバン の活動拠点となり、また、英国からの独立時に
アフガニスタン と
パキスタン に分断された
パシュトゥーン人 の居住地域の政情不安を引き起こし、それら地域を通過するTAPIプロジェクトは厳重な警備のもと慎重にその建設工事がされており、工期に遅れが発生しています。この観点からインドのエネルギー不足は今尚解決しておらず、ロシアに触手し、資源が豊富な
中央アジア との関係を深めるのは当然の動きと言えるでしょう。
中国にとっても
アフガニスタン は戦略上重要国家となります。それは
アフガニスタン 北東部、中国との国境沿いにあるワハーン回廊の治安問題が顕在化しているためです。
新疆ウイグル自治区 に隣接する同回廊を伝い、
イスラム 過激派の
流入 を恐れる中国は経済の安定が治安の正常化をもたらすという概念のもと、
アフガニスタン に対する積極的な投資を行い始めました。中印で対立する
パキスタン のグワダル港とイランのチャバハール港の港湾開発、そしてそれに基づくCPECを中心とする中国の「一帯一路」構想とインドの「南北経済回廊」の競争は最終的に
アフガニスタン 経済の安定とその貿易含めた外交関係に大きく依存することになります。
アフガニスタン の輸入統計を見ると、中国と
パキスタン の高い影響力と、また陸路で隣接されていないインドがその経済関係において中パに大きく後塵を拝している状況を伺い知ることが出来ます。輸送量に制限があるため、インドと
アフガニスタン の航空貨物輸送協定は貿易関係の大幅な改善に至らず、インドにおける
アフガニスタン 市場アクセスは困難を伴っています。また政治的関与も無視することは出来ません。
アフガニスタン 復興を主導する四カ国の枠組みであるQuadrilateral Coordination Groupは米国、
アフガニスタン 、
パキスタン 、中国で構成されており、インドはその主導権さえ握れておりません。
2016年5月3日のthe Diplomatの記事"
Where Does Afghanistan Fit in China’s Belt and Road ?"によると、
パキスタン と比較すると投資額が小さいものの、今後、中国は
アフガニスタン をその「一帯一路」構想に取り込むことを伝えており、
経済特区 SEZの設置を中心とした経済開発とワハーン回廊を中心としたインフラ開発を行うことで、その経済的影響力を高めて行くことになるでしょう。これら内容を深く分析したものとして、2016年6月9日のthe Diplomatの記事"
5 Reasons Gwadar Port Trumps Chabahar "では、
アフガニスタン 市場アクセスを巡る中国とインドの攻防も、中国の圧倒的勝利に終わるという内容を伝えております。
また、インドの輸入統計を見ると、中国の高い影響力と中東を中心とした資源国への貿易依存が目立ちます。高い
GDP 成長率を維持するなか、
貿易赤字 の拡大とエネルギー供給源を確保に苦しむインドは国家戦略上最重要視していた
アフガニスタン 市場アクセスの政策も振るわず、「メイクインインディア」を中心とした
内需 の喚起に今後集中していくことになるでしょう。そして、エネルギー問題については中露同盟に依存していくことになり、中国が
トルクメニスタン 、
ウズベキスタン 、
カザフスタン 等の
中央アジア から引いているパイプラインを一部インドに回すことで対応していくことが予想されています。
これは中露が進めるユーラシア経済統合と
上海協力機構 の協調路線に重なる動きであり、中国の習
国家主席 は印モディ首相に対し、「一帯一路」構想への参加の呼びかけを行っています。そして、中国主導で進めるAIIBにおいては、提案事業が審議検討段階に入っているなか、インド国内のインフラ開発を多数盛り込みました。これは昨年6月のインド
財務大臣 による「
財源に限界があるなかAIIB融資の活用機会を模索する 」という発言と一致し、両首脳間ではインドが中国の「一帯一路」構想に加わるという大筋合意が出来ているものと推測しています。
南アジアはいま大きな変革期のなかにいます。インド一強時代は間もなく終焉を迎え、
アフガニスタン 市場アクセスは本年をピークに中国が積極投資を開始することになり、
中央アジア と南アジアの融合が図られて行くことになるでしょう。そして多くの利害が一致する中露が主導し、インドを支配下に置いたうえで、政治経済の安定秩序が図られ、それは域内においてはSAARCの価値低下に繋がります。
カシミール 問題に起因する印パの強い緊張関係で延期となったSAARCの次回会合の日程が未だに決定していないなか、
上海協力機構 には本年、インドと
パキスタン が加盟することになっています。中露の包囲網が高まっており、両国に手綱を引かれる形で、南アジアは2017年、極めて厳しい試練に向き合うことになるでしょう。
Afghanistan by
Asian Development Bank on
Exposure